支配層は社会の上層部の地位を失って一般市民の地位の程度にまで弱められることを恐れていると、私達は述べた。彼らが恐れているのは、主に次のことである。
1. 労働者階級での突然のパニックで、人々が仕事を離れて、高圧送電線網や水道本管の保全がされずにインフラが崩壊し、そして、法人資産の安全確保が維持されないこと。
2.安全確保が欠落していることが明らかになり、警察や私的な防衛部隊が自身のパニックで取り乱すときに、野火の様に燃え移る、日和見主義的な略奪行為。
3.暴動を抑えつけるために送られた軍隊が野蛮になっていくこと。彼らは率直に言えば訓練をさせられていたので、庶民を支配層に反対するようにさせて、パニック以上の反乱、沸き立ち鎮静しない表面の下で騒然とする階級戦争を民衆の中につくり出すこと。
4. 株式市場が、現金を弁済しようとして突然の売注文で崩壊すること。銀行が、弁済される証書と預金口座の要求に応じることができず、そのため金融システムがもはや機能していると考えられず、そして、無定住の権利が、大衆の考えとして広がり始めること。
5.軍の部隊や市民軍が、悪党状態が形成されるような離脱した部隊になり、世界の大部分が、エリートの安全が引き受けられない、あるいは確実にされない、所有者のない土地(中間地帯)になること。
6.富裕なエリートと、この大きな嘘が暴露されるときに権力を握っている人達が、餓死寸前の人間集団が組織化されたときに起きる集中略奪や報復以上とともに、彼らをずっと憤慨していた人々の標的になること。
7.エリートが裁判所と警察の掌握によってもはや守られない名目上の所有者に変えられたとき、エリートの権力がもはや認められないこと。そして、軍隊がもはや耳を貸さないこと。そして、紙のお金から成り立っていることが、物々交換で営まれる経済では、もはや価値を持たないこと。
これらの可能性に立ち向かうために、支配層はしっかりした日付けを望んだ。民衆を突然のパニックに投げ込む、突然で予期されない地球の変化が起きるときの日付を。
そして、そのようなときには株式市場と銀行を閉じることができることを望み、暴動を防ぐために戒厳令を発令できることを望んだ。これらの処置は、自己防衛と日和見主義的な強欲という民衆の観念を、民衆の心の中に、処罰の恐れに置き換えることによって、権力と富の侵食を止めるものと見なされた。うまく時が選ばれた厳戒令は、エリートが恐れることを、統制された設定に取り替えるだろう。その設定は次のよう
である。
1.移動は妨げられるだろう。そして、仕事は、力によって必要ならば銃口を向けられて仕事に戻らされる労働者で、専心されるだろう。したがって、電気や水道の公共施設は機能し、食料の配給は続くだろう。
2.略奪は、夜間外出禁止令と移動制限によって、大きく減少するだろう。そして、野火のような現象は決して起きないだろう。
3.拷問は路上でなく扉の後ろで起き、反乱をかき立てるのに必要な組織は、夜間外出禁止令と移動制限と容疑者の選択的な逮捕により、出現できないので、無慈悲な軍の手法は、反乱をかき立てないだろう。
4.株式市場と銀行業務を利用する権利は統制されるだろう。それで、そのシステムは、弁済請求に出会うことはなく、弁済請求による崩壊に決して至らない。そして、その怪物は死んでおらず生きているので、民衆は請求書を受け取り、義務を支払い続けなければならないと感じる。
5.戒厳令が中央司令部の陣頭に立たされると、全ての可能な軍の部隊を包含するために設けられた戒厳令は、そのような作戦行動を暴露することにより、離脱する者を防ぐだろう。単独の部隊であれば離脱することができるが、手続きを必要とされる部隊と他と調和して動く部隊は、この選択は、摘発されるのが分かっているので、抑制される。
6.電気と水道の公共施設のインフラは損なわれず、そのままの金融システムと、政治と法治システムを支えることが、広く行き渡りそうで、崩壊しそうではない。したがって、裁判への懸念は、富裕なエリートに対する報復行動を防ぐのに使われることができるだろう。
7.定常状態が続き、紙のお金と捺印証書と企業の株式保有はまだ、その背後に法律の強い力を持つ。そして、一般の人はそれらの上に壊されない握りこぶしを見て、地震や、ぐらつきよろめいている地球といった新たな危険状態にもかかわらず、平凡な仕事の日々の世の轍の中を歩き続ける。
とにかく戒厳令が成功するためには、極度の保護に対する論理的な根拠として認識されるだけの問題があらねばならない。たとえば、地震によって大陸が2つに分裂するとか、高波が海岸線に沿った全ての都市を引きはがすとか、あるいは、病気の押し寄せが、もし強制隔離によって管制されなければ、その国をぬぐい去る恐れがあるといったこと。
そして、この前兆が本当であらねばならない。そうでないと、戒厳令という強い権力に対する支持は当を得ず、その支持は速やかに衰えだすだろう。
したがって、そのような災害の直前に発令される戒厳令は成功するだろう。しかし、そのような災害の間に戒厳令を発令しようとすることは、戒厳令の構成部分もまたパニックになりそうなので、失敗しそうである。そして、混乱した伝達と、その結果を十分に安心できないことは、エリートが頼っている非常に統制されたシステムでのパニックを
煽る。もう一度、エリートに対する「Catch-22」である。
パニックを引き起こしそうな変化のはっきりした日付けが無ければ、彼らは彼らの恐れる野火を止めることができない。しかし、何がやって来るのかについて、そしてまた、何がその日付けをもつのかについて民衆が知らされなければ、はっきりした日付けは用意されない。したがって、一般市民より地位が上のエリートに役立つどのような戒厳令の大演習との協同は
減少させられるだろう。
2つのシナリオ の可能性がある。ひとつは、制御されたパニックであり、そこでは、一般市民は、起こっていることに気付き、どのように取りかかればよいかについて自分の心の声を聞くことができる。もうひとつは、エリートが恐れる制御されないパニックである。
「訳者注) Catch-22:米国のユダヤ系作家ジョセフ・ヘラーの小説。後にマイク・ニコルズが映画化。
キャッチ22とは成文化されていない米軍の軍規で精神に異常をきたした者は出撃する必要はない、ただし「精神に異常をきたしたものは自己申告すること」、「自分の異常を認識できる者は正常である」、つまりどうやろうと(死なない限り)出撃しなければならない。
第二次世界大戦末期、この軍規の下で地中海の島から空爆に出かける米軍爆撃機部隊の物語。 主人公がドタバタを繰り広げながらも全編に不条理感が漂う。 書籍上下とも720円早川書房 小説は1961年、映画は1970年」
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BY TK